SFのような回転寿司

日本訪問でオレが楽しみにしていたのは回転寿司だった。

昔は回転寿司と言えば新橋とか御徒町とかでオヤジが肩を丸めて卑屈に食う寿司と決まっていた。
知らぬ間に回転寿司は市民権を得ていた。

郊外型とかで駅前ガード下の店は激減し車でしか行けないような国道沿いに出店している。
それも大型店だ。

どおりで武蔵野の強姦魔ときどき骨董品屋の名を欲しいままにするポンポコ堂が詳しいわけだ。

オレはネットで回転寿司屋を探した。
回転寿司パラダイス−回転するから寿司なんだ!のキャッチコピーはオレのセンスにビビッとした。

えーっと、千住千住・・と。
千住には回転寿司が絶滅しているのか?

しばらく方々のサイトを調べたあげくやっと見つけたのは "無添 くら寿司 南千住店" ウーンなんだか分からないが前記のサイトでも評価は悪くない。

早速行ってみる。

都心とは思えないほど寒々しい南千住の駅から5分ほど歩いたところにショボイショッピングセンターがありその二階にくら寿司はあった。
同時に100円ショップダイソーもあった。

どちらもその貧乏さ加減オレにぴったりだ。

ダイソーに入ってみる。
オレはタイのダイソーに行ったことはあるが本場の日本のダイソーにはいるのは初めてだ。

まるでパリのルイ・ビトン本店に入店するような気持ちで中をのぞく。
意外に一般人というか単なる主婦のオバサンやそのクソガキが店内を走り回っている。

うーん、、、オレの予想では100円ショップにいるのは人生半ば終わったようなしょぼくれたオヤジや車上ホームレスがジャリ銭握りしめて今日の糧を買いに来るようなひなびた場所だと思っていたのだが、意外に店内の雰囲気は明るかった。

当然だが本場は違う。

タイのダイソーとは品揃えのスケールが違う。
品物の質は・・・同じだった。
品数が多い分楽しめるかな。

すぐに飽きたオレはくら寿司へと向かった。

入店してすぐにカウンターがあるのかと思っていたオレは面食らった。

ファミレスのような姉ちゃんが『いらっしゃいませー 何名様ですか?』・・・一見だからって嘗めてるのかこの売女!回転寿司と言えば学生の団体以外、一人に決まっている、と思ったが、みわたすとすべてファミレスのようなボックス席に埋め尽くされている。

ファミレス違うのはその真横に工場のベルトコンベアが回っていることだ。
当然上には寿司の皿が回っている。

まるで家族住み込み可の流れ作業工場に流れ着いた貧民家族のようだ。

カウンターというか一人がけの席ははじの方に追いやられ、まるで貧民の中の貧民、極貧天涯孤独アパルトヘイト席だ。

オレ以外は、なにか無性につまらなそうな顔をして寿司つまんでいるリーマンがいるのみだ。
やっぱりアパルトヘイトだな・・・。

『ご注文はこちらのタッチパネルでお願いいたします』・・・なんだそれ?
回転寿司はベルトコンベアの上を流れるネタから喜捨選択するしかない消去法寿司のはずだが・・・。

オレの不信感は募る。

知らぬ間に回転寿司は進化していた。

流れてくるネタを勝手に取るのは同じだが、この方式だと食べたいネタがなかなか回ってこず、中にはメニューにはあっても幻のネタとしか言いようのないネタがあった。
その弊害をなくすため個別に注文できるようになっていた。

対人恐怖症傾向の世の中に迎合してか板前に直接注文するのではなくあくまでデジタルに機械に打ち込むだけで注文で来るようになっている。

えーっと、マグロと甘エビと茶碗蒸し・・・それから・・・どうするのだ・・・オレは悩んでいた。
店員の売女、ではないオネイサンが教えてくれた。

『おきまりになりましたら注文ボタンを押してください』

オレはすっかり世話の焼けるオヤジになっていた。
やっと注文の仕方が分かったオレは、面白くなってしばらくタッチパネルで遊んでいた。

それにしても変なネタが増えたな。
なんだこのハンバーグ軍艦巻きっていうのは?
一瞬頼みそうになったが、保守的なオレはネギトロ巻きにした。

注文したのはいいが自分の皿が回ってくるのはどうやって認識できるのだ。
座席に電流が流れるとかどうあってもごまかすことが出来ない仕組みがあるはずだ。

オレはまた悩んだ・・・その時だった『ピコーン、ピコーン、ピコーン、ご注文の皿が参ります』という電子音が響く。
見ると数メートル先から『注文』と言う下駄を履かされた茶碗蒸しがやってくる。

音からして後3分でエネルギーが切れるのかと思った。
ゴトゴトと回るベルトコンベア、一心不乱に作業(食事)を続ける住み込み家族労働者達(客)、とぎれなく店中で響く電子音、レストランではなく精密部品工場と言った方がぴったり来る寿司屋だ。

やっとSFチックな回転寿司にも慣れ腹一杯になった。
ここでまたも問題が出現。

お勘定はどうするのだ。

店内では誰も大声で『オネイサンお愛想!』とか怒鳴っているオヤジもババアもいない。

オレは悩んだ。

その時目の前にあるタッチパネルに『お会計』のボタンがあるのに気づいた。
それを押すとすぐ売女・・・じゃないオネイサンが飛んできて電卓みたいな端末で計算してくれる。
オネイサンに金を渡そうとすると変なレシートをくれて『お支払いはあちらでどうそ』と追いやられる。

徹頭徹尾、機械化と省力化、分業化が進みインドのカースト制がサイバー空間に具現化したような寿司屋だった。

うまかったし、サービスも文句はなかった。

だが、日本人がどんどん人付き合いが下手になっている現実を見せつけられたような寿司屋訪問であった。
結局これも時代の要請ってやつなんでしょうかね?


外道風土記、2007年12月12日

外道の細道、2007年10月12日


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