松茸食いたい

とんでもないことを言ってくれるものだ。

入院中のタイの友人に『なにか欲しい物はあるか?遠慮せずに言え』と言ったら、希望は松茸だった。

なんでも以前、訪れた神戸で食ったことがあるらしく、病人なので気弱に『死ぬ前にもう一度だけ食いたい』なんて言っている。

オレはキノコ類全部嫌い。
不気味だ。
カビだと思っている。

形がチンコで色はババアのマンコ、その上、気を許すと毒まで持ってやがる。
あんな物食わなくても、世の中他に食う物は沢山ある。

そんな感じで、オレにとっては松茸はいくら高くても全くの無意味食品だった。
興味もなかったが、確か松茸って旬があったな・・・。

時折バンコクの日系スーパーやレストランでも松茸フェアとかやっていたが、オレは『なんだカビか』と無視して
いて知らなんだ。

ヒロポン軍曹に電話してみる。
あいつはこうした年寄りくさい物好きだ。

『松茸ってどこで買えるんだ?』

『・・・なんの話ッスか?今3月ですよ』

『アレって季節あったような気がするな』

『秋の物ですよ』

『タイに秋はない。どうせ中国からの輸入だろ。あいつらなら金さえ出せばなんでも売るんじゃないか?』

『松茸に養殖なんかないっすよ。全部天然物で季節の食い物です』

『冷凍は?』

『知らないッスけど、冷凍物なんか香りしないでしょう』

『オレキノコ食わない。香り・・・イカ臭いのか?』

『えっ、違いますけど、なんでですか?』

『チンコに似ている』

『・・・違います』

事情を話すと、ヒロポン軍曹は秋まで待て、と言った。

普通はそうするだろう。

だがオレは知っていた。すでに末期症状が始まっていて秋まで持たないかも知れないのだ。
もう半年待てとは言えない。

どうにかならないものだろうか・・・なんとかのぞみを叶えてやりたい。

翌日オレはフジスーパーへ行き、永谷園の松茸お吸い物の素を買って届け、実物はもう少し待てとお茶を濁して立ち去った。

その四日後彼は昏睡状態に陥り、意識を取り戻さないまま翌日深夜に逝った。

もっと真剣に松茸を探さなかったことを後悔している。

徒然外道、2011年5月26日


煩悩の夕暮れ、2011年3月11日


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