誰にでも、はかない恋の思い出があるだろう。
心の思いを伝えられないもどかしさが、日を重ねるに従い、時として自己嫌悪となり、自らを苛める。

高校3年の夏。

当時の僕の純粋すぎる心は、盲目な恋の炎に青く包まれていた。
大学入試を控えた予備校の一室で、詩織という少女に僕の心は奪われていた。

偏差値の低い公立高校の僕と違い、詩織は有名大学付属高校に通っていた。
矯正な顔立ちと誰にでも明るく振舞う気さくな性格に、多くの男子は心を奪われていった。

紺色のブレザーに身を包んだ詩織の斜め後ろの席に座り、彼女の白いうなじを脳裏に焼きつけては、想像の中で詩織を犯していた。
僕の詩織への切ない思いは親しい友人にも告げる事はなかった。

通っていた予備校は、少人数制だったため、詩織を含んだクラスメイトは自然と深い友人関係になっていった。
しかし、成績も悪く、いまいちイケてない僕が、詩織に告白などはできるはずも無い。

毎週金曜日は、夜間の授業が終わると制服を着替え、終電まで皆で居酒屋で飲むのが恒例だった。
運良く詩織の隣に座ると、できるだけ気のあるそぶりを見せない様に装うのが辛かった。

しかしながら、詩織への儚い片思いが終焉を迎えたのは思いのほか早かった。
受験を控えた冬に、友人のYが詩織と付き合っていると告白したからだ。

詩織はYに、受験前の大切な時に、自分達が付き合っている事は誰にも言わないで欲しいと言ったそうだ。
しかし、皆のアイドルをモノにしたYが黙っている筈も無かった。

僕は、Yの口から、詩織との初めてキスをした様子を得意気に話すYを僕は怨む気にはなれなかった。
むしろ、その事実を、淡々と自分の中で消化していく気持ちが不思議だった。

何れにしろ、僕の心の中で聖女化された詩織の肖像は、ベルリンの壁のように音を立てて崩れていき、詩織とは友人としてのスタンスを保持しながら付き合うことができた。

あれほど思い焦がした恋は、熱が冷めたように引き、僕の手淫のオカズも、詩織から葉山レイコになっていった。

あれから20年。

まさかパタヤで詩織にめぐり合う事になるとは。

いつものように、パタヤ郊外の置屋街を歩いていると、小柄な美少女が立っているのに気がついた。
肌の色は白く、涼しい目元と矯正な顔立ちは、20年前の詩織にそっくりだった。

むしろ、僕が詩織を初めて見たときよりも、やや幼い顔立ちをしていた。
彼女はトンと言った。

もし高校1年のときに詩織と会っていたら、おそらくはトンと見分けがつかないだろう。
Tシャツにジーンズ、サンダルを履いたトンは、有名私立高校に通っていた頃の詩織の服装とはかけ離れていたが、その顔つきは詩織とそっくりだった。

「いつからここに居るの?」

「昨日から」

「何歳?」

「18歳」

「本当かい?嘘だろう」

僕は詩織、いやトンの顔を覗いて尋ねると
「へへっ…。」
と言いながら肩を左右に振り僕の質問をはぐらかした。

少し照れながら、上目遣いに僕の瞳を覗く仕草も、そっくりだった。

ベルリンの壁は、再び僕の前に立ちはだかった。
しかし、その壁は20年前のように高くそびえてはいなかった。

僅か700THBで、その壁を超える事ができるのだ。

20年ぶりに胸がときめいた。

消えたと思っていた青い炎が、再び胸の中でゆらゆらと燃えはじめた。

忘却の思い出が、走馬灯のように駆け巡り、詩織と過ごした短い青春が幻影のようによみ返ってきた。

「ここしか行けないの」

詩織の志望校は、国立大学で難関中の難関だった。

合格が難しい事は皆知っている。
しかし、詩織は親の意思に反し、自分が通う高校の付属大学にそのまま入学する事を拒んだ。

詩織の両親は、彼女の勉強したい分野で最も難しい大学に合格する事を条件に、彼女の希望を飲んだ。
Yを含めた仲間の数名は志望大学に合格し、僕を含めた多くの仲間は受験に失敗した。

詩織も受験に失敗し、希望の大学に入る事はできなかった。
浪人を選んだ僕には、来年があるが、詩織には来年は無かった。

受験という青春のイベントが終わり、僕らは記念に伊豆の温泉に行った。
1泊2日の旅行に、詩織をはじめとした4名の女子は、親への口裏を合わせて参加した。

免許をとったばかりの僕がワンボックスの運転手になり、山桜に覆われた早春の伊豆の山を駆け抜けた。
レンタカー屋に返却する帰路、詩織を駅におろすと、バックミラーの中で彼女はいつまでも手を振っていた。

少女が振るその手を、僕はついに握る事さえできなかった。
その手を、20年の時を隔てて握る事ができた。

「999」

置屋から200Mほど離れた沼地の畔に建つモーテルの看板を見上げた。
スリーナイン。僕と詩織の新たな出会いに相応しい名前ではないか。

さあ行くんだ その顔上げて
新しい風に 心を洗おう
古い夢は 置いて行くがいい
ふたたび始まる ドラマのために
あの人はもう 思い出だけど
君を遠くで 見つめている

タケカワ ユキヒデの歌が頭の中をグルグルと回る。
ついでに海綿体の血液もグルグル回る。

詩織いやトンの手を握る手に、自然と力が入る。
高鳴る鼓動を抑えながら、僕は銀河鉄道999の個室寝台の扉を開けた。

大きなベッドの周囲は鏡に囲まれ、何故か産婦人科の診察台のような椅子がベッドの横に置かれている。

僕は、万感の思いを込め、詩織の唇に自らの唇を重ねた。
それは、20年もの間、適う事のなかった接吻だった。

あの日、早春の伊豆の温泉宿では、男子と女子用として各1部屋ずつ用意した。
しかし、一部屋は酒を飲みながらの団欒部屋として使い、もう一室は就寝部屋として、男女が共に雑魚寝していた。

深夜になり、ひとり、そしてひとりと、団欒用の部屋から就寝部屋に移っていった。
僕が就寝部屋に入った時は、灯りの消えた部屋の中で、3-4名が大人しく寝ていた。

手前の布団には、詩織が寝ていた。
暗闇の中、窓の外の月明かりに浮んだ詩織の寝顔は美しかった。

詩織の深い寝息の音を確かめると、突然胸をえぐるような欲望が胸の中で衝き上がってきた。

このまま、詩織の唇を奪いたい。

湧き上がる欲望に堪えきれず、僕は月明かりに浮ぶ灰色の端正な唇に顔を寄せた。
寝息が顔にかかる所まで近づけてみたが、残りの僅か数センチが途方も無く遠く感じた。

結局、僕は何もできずに布団に入り、隣で寝ている詩織を見ながら静かにマスを試みた。
これが、詩織をおかずにした最後のマスかきだった。

あの夜、何度も思い描き果たせなかった唇の味は、あまりにも濃厚だった。
詩織、いやトンは積極的に、舌を絡め、唾液を啜りながら僕の唇を貪ってきた。

僕は、髪をかき上げ、耳たぶを噛みながら、憧れの白いうなじに舌を這わせていった。
崩れるようにベッドの上に倒れると、荒々しくお互いの服を剥いていった。

互いが、一糸纏わぬ姿になるのに多くの時間は必要なかった。
膨らみかけた乳房から下方に目を向けると、タンポポの綿のような産毛が僅かに恥丘に生えていた。

「見ないで…」

トンが両手で下半身を覆ったが、彼女が隠したがったのは、不思議と恥丘だけだった。
つまり両脚を広げても、その奥に潜む淫唇を見られるのには一向に構わず、むしろ殆ど毛の無い恥丘を見られる事に恥じらいを見せたのだ。

「毛の無い女の子は大好きだよ」

本心からそう言うと、トンはゆっくりと両手を外してくれた。
僕は、トンを診察台のような椅子の上に腰掛けさせた。

椅子の両端から伸びる添え木に両脚を乗せると、煌々とした蛍光灯の下で、トンの秘部が映し出された。
僅かに開いた陰唇は、昔見たロリータ写真集の少女達と同じように美しかった。

ただ、写真集の少女達のそれと異なるのは、そのスリットの下部からは、透明な淫汁が僅かに滲み出している事だろうか。

僕は、トンのもうひとつの唇に、自らの唇を重ね、溢れる淫汁を音をたてて啜った。
ジュルジュルという淫靡な音に、トンは体を反らせ全身で悦びながら絶頂に達した。

トンとの出会いは、僕にとって青春への回帰でもあり、失われた恋への憧憬でもあった。

その後、何度もトンを抱き、都度その中に詩織の姿を重ねていた。
しかし、甘い青春の憧憬とは裏腹に、互いの性儀はあまりにも熟練しすぎていた。

もし、当時の僕が詩織と寝ても、おそらくは互いのぎこちないセックスに終始していただろう。
トンは、アナルセックス以外の行為の全てを受け容れた。

ある日、行為の前にトイレに行きたいというトンの要求を無視し、そのまま999の診察台に乗せた。指でGスポットを刺激すると、快感に身を悶えながらも僕の行為を拒絶する。

その拒絶は、僕の想定内であり、同時に自分の考えが正しかった事を証明した。

僕は、右手の中指でGスポットを上方に押さえながら、片方の手でトンの下腹部を押した。
すると、Gスポットと下腹部の両方からの刺激に膀胱は圧迫され、猛烈な勢いでおしっこが飛散していった。
指を抜いても、我慢ができずに、清楚な顔を苦痛に歪ませながらトンは放尿を続けた。

逆に、トンの中に挿れたまま、僕が放尿した事もある。
挿入時に、このまま、おしっこをしてよいか聞くと、以外にも簡単に頷いてくれた。

小さな割れ目に愚息を入れると、出口はきっちりと塞がれる。
どんなに膀胱が張っていても、硬直したペニスから放尿するのは意外と難しい。

従い、腰は動かずに少し間をおくと、自然に尿意がこみ上げてくる。
あとは、少女の中で放尿する背徳感を乗り越えれば自然と排尿に至る。

膣に入れたまま放尿するのは不思議な感覚だ。
自分の尿で膣内が膨張するが、ペニスで扉が塞がれているため暫くは尿が漏れる事は無い。

水風船のように、膣が膨らみ、そして堰を切ったようにペニスと膣の間から尿が噴出す。
勿論、おねしょをした時のようにシーツはびしょびしょに濡れる。

トンは、おしっこにまみれたペニスを口に含むのは全く拒まなかったが、口内射精は嫌がった。
一度、喉の奥に果てた時に、ザーメンが気管支に入り、猛烈にむせたからだ。

トンは、咳にむせながら、鼻と口の両穴から僕の白濁液を出して苦しんだ。
それ以来、口で果てる時は唇から出した舌の上に出す事を二人のルールと決めた。

はじめは、トンの中に詩織の面影を重ねていたが、プレイの内容が激しくなるにつれ、次第に僕の中で詩織の影は薄くなっていった。

勝手なものだが、言われるまま僕の肛門に舌を這わせるトンに、予備校の机の上に開かれた教科書を真剣な眼差しで見つめる詩織の姿を重ねる事は難しくなっていた。

勿論、パタヤの淫売の少女に、自らの青春の憧憬の面影を重ねるのに無理があるのは承知している。
トンが過激な行為を受け容れた分だけ、彼女の中の詩織の幻影は薄れていくのだ。

薄れいく幻影を戻すため、僕はトンをパタヤの町に連れ出した事がある。
ロイヤルガーデンプラザで、詩織が着ていたデザインに似た服を買い、ラコステのスニーカーを履かせ、一緒に手を繋いで町を歩いた。

当時のファッションとは異なるが、デザイナーズブランドに身を包んだトンは、見違えるように可愛く、再び沸いてきた詩織の面影に、僕の胸は激しく鼓動した。

センスの良い服を買ってもらい、トンは子供のように無邪気にはしゃいだ。
小さな体をピタリと僕に寄せて、一緒に腕を組んで歩いた。

高校生の頃に戻り、詩織とデートしている錯覚に、軽い目眩を感じた。
しかし、幸せな錯覚に浸ったデートは長くは続かなかった。

「すみませんが、一緒にいる彼女を、どちらでゲットされましたか?差し支えなければ僕らにも教えてもらいたいのですが…」

デパートのテーマパークで、20代前半に見える2人のインド人の観光客の男に英語で話しかけられた。
慇懃無礼な言い回し方だが、明らかにトンに対する好奇心に満ちている事は分かる。

「ゲットとはどういう意味ですか?彼女は僕のワイフの妹だが」

とっさに思いついた嘘だったが、インド人はしつこい。

「いえ、あなたに迷惑はかけません。彼女のようにキュートなprostitutesとの出会いの場所を教えてくれませんか?」

Prostitutes(売春婦)というフレーズに血が頭に昇った。

「チョロ、チョロ(行け!)」

ヒンズー語で怒鳴ると、驚いたように立ち去ったが、よく見ると、少なからず周囲から向けられた目は好奇に満ちていた。

中学高学年か、せいぜい高校一年生くらいにしか見られない少女と手を組んで歩く年の差倍以上のカップルは、周囲からすれば尋常な光景に見えないのは否定できない。

トンがProstitutes(売春婦)なのは間違い無いし、彼女の年齢から考えると危険なデートである。

僕らは、楽しい筈のデートを早々と切り上げ、ひと気の無いモーテル「999」に引き返し、再び淫靡な快楽に身を委ねた。

その後、トンの中に詩織の幻影を見る事は無かった。
トンのいる置屋にはその後も毎週のように通い続けた。

1年後、他の多くの淫売達と同じ位の時間を置屋で働き、トンはパタヤから消えていった。

数奇な事に、トンがパタヤから消えた数日後、詩織からのメールが届いた。
未だに交流のある当時の友人から、僕のアドレスを聞いて懐かしくなったそうだ。

その後、専門学校に入学した詩織は、イベント関連の会社に就職した。
同じ職場の妻子もちの男性と不倫している事も知った。

離婚したら結婚しようと言われて、10年も待っている間に、婚期を逃したと書いてあった。

「日本に来る事があったら、絶対絶対電話してね。昔の店で一緒に飲もうよ!」

詩織のメールからは、懐かしさが溢れ出ていた。

その数週間後、日本への出張の機会があったが、僕は詩織に帰国を知らせる事はしなかった。

時間を作れば、詩織に会う事はできただろう。
しかし、僕にとっての詩織は、永遠に制服の似合う美少女でなければならない。

不倫と仕事に追われ、40歳になった女と逢う事で、自分の中の青春の憧憬が崩れていく恐怖を感じずにはいられなかったのだ。

散々迷ったが、成田空港のバンコク行き最終搭乗案内を待つ間、僕は公衆電話から詩織の携帯のナンバーを押してみた。

「ただいま、電話に出ることが出来ません。ピーと鳴ったら…」

最後まで聞く事無く、受話器を置いた。
そのとき、バンコク行きの全日空の最終搭乗案内のアナウンスが聞こえた。

僕は踵を返すと、搭乗口に向かって歩き始めた。
再び始まるドラマのために。

企業戦士夜の紳士録、2009年12月19日


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