『私の家は貧乏じゃない!』

『嘘つけ!一族郎党、女はみんな淫売じゃねえか!!弟に至っては懲役行ってるし』

『違うもん!小鳥にだってマンション建ててあげるのよ』

『そういう無理のある嘘ばっかりつくから信用されないんだ。だから貧乏なんだ』

『違うーーー!!本当に小鳥のマンションあったら、あんた1万バーツ払う?』

『おう!100万でもいいぞ、この大法螺吹き』

『なによ貧乏日本人!100万ないか無いくせにー!』

『お前こそ早く携帯代払え。毎日ワンギリするんじゃねえ小鳥売女』

『畜生ーーーー絶対100万だからね!水牛野郎!!』

こんな育ちの悪さむき出しの言い争いが、すべての事の始まりだった。

なんでも、田舎ヤクザの抗争に巻き込まれて親父が射殺された後、よほど考えの無かったお袋はカード賭博で親父の残した財産をすっかり使い果たし、仕方なくノックちゃん一族は淫売へと身を落とした。

親父はやり手の田舎ヤクザ兼漁師で、一時は小鳥マンションも持っていた。

つまり以前は金持ちだった。
これがノックちゃんの主張だった。

・・・どうですか?

・・・信じられますか?

オレは全然信じていなかった。
信じられるわけ無いだろ。

普段の行いが行いだし、『可哀想な小鳥のために5階建てのマンション建ててあげた』だと・・・冗談はマンコだけにしろ。

全く相手にしていませんでした。

ある日、バン週(バンコク週報 日本語新聞)のサイトを観ていたら、タイ観光庁の提供で、タイ各地のマイナーな観光地を紹介する企画を見つけた。

マイナー好きのオレは読み込んだ。
そこで見つけてしまったのだ・・・『ナコン・シー・タマラート県パクパノン ツバメのマンション』。

・・・本当だった。

なんでも、海に近い川沿いに建物建てると勝手に燕が巣を作る。
それを片っ端からネコババして売っているそうだ。

これなら、絶海の孤島の岸壁や、洞窟なんかによじ登るリスクを負わずに、女子供でも簡単にツバメの巣をとることができると言う、いかにもタイ人らしいダレた発想の商売だ。

ツバメの巣は、拾ってきた海草をツバメの唾液で固めているものらしい。
つまりは、トリのゲロ食って喜んでいることになる。

中国人は変態だ。

可哀想にツバメは巣を作るそばから、あこぎなタイ人に盗まれてしまうので、死に物狂いになって唾液を出して巣を再建、身体壊して唾液に血が混じる。

それが最高級品のピンクの巣となって、さらにタイ人の懐を潤しているそうだ。
主に働くのはツバメだけ、と言うところが、他力本願なタイ人気質にピッタリだ。

一般に、南部人は豊かであるが、気が短いとされる。
あくまで他の地方のタイ人と比べた話で、それでも日本人や韓国人に比べれば、ずいぶん温和な人たちだ。

また、短気の反作用か、サバサバした男気のある性格でもあり、その点はタイ人の中でも特徴的だ。

なかなかイメージが湧かないかもしれないが、南部の主な産業は農業、漁業、流通小売などの商業だ。
短気な百姓というのも変な話だが、南部の農業はかなり商品作物に偏っている。

ゴム・サトウキビ、アブラヤシ、これは農業ではないが、極めて農牧畜業的な色彩を持った海老の養殖があげられる。

そのまま食えるようなものは少なく、国際的な投機相場の対象になるようなものも少なくない。
そのせいか、農村漁村出身の癖にやたらと相場に詳しい、山師みたいな気質を持っている。

また、これらの商品作物を産することから、仲買卸に強い華僑、インド人なども古くから入り込み、血を混ぜたせいで顔立ちも独特なものになり、他の地方とかなり違う。

失敗作としか思えないのも沢山いたが、中国人の白さとインド人の彫りの深い目鼻立ちが混じった南部人は、実は大変美形だ。

それも所謂バタ臭いエキゾチックだ。
可愛いではなく、寒気がするような美人。

フィリピン人の淫売を理想の女性像とするオレは、この手の顔立ちに大変弱い。
タイ風俗の世界では、マイノリティーとされる南部人インバイとのお付き合いが多かった。

ノックちゃんとも、彼女が19歳の時からのお付き合いで、一族郎党、ホストに孕まされてガキ生んだオネイサンの娘も、やっと兵役から帰ってきたと思ったら、シャブで3年6月の懲役行っている弟まで、全て顔見知り。

嫌な腐れ縁だった。

まっ・・・そんなわけで、オレは100万バーツの代わりに、南部淫売の田舎のクソ漁師町に行く羽目になった。

ノックの勝ち誇った顔が気に食わなかったので、『自分の目で見るまで信じない』と言い張ったのが裏目に出て、本当にトリの巣マンション見に南部に下ることになったのだ。

なんでもいいが・・・遠いんだよ!

南部外道の取材も兼ねていた為、途中あちこち寄り道し、何泊もしてたどり着いたぜナコンシータマラート県はパクパノン郡。
メーター読みで1009・7キロもありやがった。

ノックの田舎は思ったほど田舎ではなかった。
南部すべてにいえることだが、意外にも生活が豊かなのが肌で感じられる。

地方の市町村なんか、役場と警察署を囲んで地方銀行と雑貨屋が数軒あるくらいが普通なのだが、南部では県庁所在地でなくとも、スーパーなど大型小売店があり、他の面でもしっかりしている。
パクパノンもそうだった。

ノックの話ではヒヤと呼ばれるオオトカゲ(1メートルもある。デカイ・怖い、ルンピニの池にいる)が沢山住んでいると聞いていたので、ドクターモローの島みたいな、とんでもない僻地かと思っていた。

田舎の癖に、生意気にもスーパーがありやがり、女子大生のスカート短すぎる。
ご休憩ホテルまで二軒もある。

気に食わん、やっぱりあのインバイの田舎だ。
くさっとる!と思いつつ、川べりの船着場に行った。

この街はパクパノン川を挟んで東西に分かれており、橋はなぜか街を逸れているので、渡し舟が運行している。

時刻は夕方5時。

仕事や学校で、ナコンシータマラートから帰る人たちで、船着場はごった返している。
人ごみを掻き分けて桟橋まで出ると、目の前に不思議な光景が飛び込んできた。

なんだこれは・・・決して驚異的な建物があるわけではなく、デザインが奇抜なわけでもないが、不自然でバランスが悪く、狂人の幻覚のようだ。

今までずっと、平屋とかせいぜい二階建てが限界だったこの田舎の風景が、一転して港湾都市の倉庫街を海上から見ているような錯覚に襲われた。

そう、これがノックの言っていた小鳥のマンションだったのだ!

高さは概ね4−6階建てほどか、それほど高いわけではないが、この田舎では異常事態だ。

それも住人はツバメだけなので機能のみを追い求め、外壁に塗装すらない、窓もない、明かり一つない異様なビル群が所狭しと林立する、死霊のマンハッタンみたいな光景だ。

ウーン・・・これだけ生活感のないマンションは、世界でここだけだろう。

ノックの言っていた通り、ツバメの巣ネコババ商売のせいで、街は分不相応ににぎわっており、お寺も新築中で立派・・・と思ったら、この寺にもツバメが住み着いたようで、坊主どもは信仰そっちのけでネコババにいそしんでいる。

本堂を新築中なのは、かつての本堂にツバメが住み着いたので、本堂を放棄しツバメに解放してしまったようだ。
どう考えても寺の建物なんだが、すべての窓をふさぎツバメのお家化している。

寺まで不自然。

この街に入って驚いた。
燕巣行が街のいたるところにあり、今日の相場価格まで表示している。

バンコクで金行を目にした事があるだろう。
お金の売り買い(貸し借り)をするのが銀行なら、金の売り買いをするのが金行だ。そしてツバメの巣を売り買いするのが燕巣行と言うことらしい。

ほのぼのしない田舎だな。
そういえば、ノックの親父が殺されたのも、ツバメの巣マンションの利権をめぐる抗争らしい。
田舎の癖に殺伐としてる。

正確に数えたわけではないが、川岸ばかりでなく、かなり川から離れた場所にも燕マンションは有り。その数は50をくだらないと思う。

パクパノンは大きな漁港で、かつて漁船は数千隻を数えたそうだが、今では燕のマンションにすっかり毒されてしまい、漁師たちは船を降り、漁船は4分の一に激減、なんとも海の男らしくない根性のなさだ。

でも、まあ・・・おそらくこれでよかったのだろう。
あの腐れインバイみたいな考えのない奴以外は豊かになれたようだ。

寺の駐車場では、隠れてタバコ吸ってた中学生に火をかりて、仲良く歓談。
彼の同級生らしき一団はスケボーとバスケの練習していた。

川べりの夕涼みゴザ食堂では、家族連れが仲良くめし食っている。
河口に近いせいか流れる風はどことなく潮の香りがする。
牧歌的ではないが平和な田舎の一日が暮れそうとしていた。

バンコクに戻ったあと、ノックに事後報告。
お前の田舎は貧乏部落じゃなかった、お前の家が特別貧乏なだけだ(本当にお土産もってノックの実家に行った。マジでぼろかった。オネイサンの私生児可愛かった)。

お前の田舎は馬鹿ばかりじゃなかった。
お前が特別馬鹿なだけだ。
だから貧乏なんだ。

だいたい、田舎者の癖に上物建てて燕に巣を作らせ、それで利益を上げるなんて、なかなか凄いアイディアじゃないか、馬鹿ばっかりだと思っていたが、お前の親父は考えのある人だったんだな・・・お前は駄目だが。

と褒めたつもりで言うと、ノックの口から驚愕の新事実。

燕のマンションは、初めからそう意図して作ったものではなく、一時の大漁にうかれた漁師(ノックのオヤジ)が大した考えもなく田舎にマンション建て始めたら、途中で資金が切れ、建設途中で何年も放棄していた。

そこにツバメが住み着いたので、巣をとって売ったら、マンションなんかより、よっぽどいい金になることがわかり、建設は本格的に中止。

窓すべて埋めて内部を薄暗くし(出入り口の小さな穴は開ける)、燕が巣を作りやすくした。
ノックのオヤジが大金手にするのを見た他の漁師たちもマネしはじめて、今のような燕のマンション群になったそうだ。

・・・やっぱり考えは大して無かった様だ。

外道風土記、2009年2月20日


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