隣の原発は年中爆発していた。

隣のお兄さんは大学生だった。
子供にとって大学生は見上げるような存在で、よくわかんないけど難しい勉強をしているらしかった。

隣家は一家そろってインテリで、両親医者の家族全員東大卒だった。

なんでこんな人達が土建屋の事務所隣に引っ越してきたのか謎だったが、対外的には大人しく、上品で、そして少し神経質な人達だった(なんか問題があるとすぐ訴訟に持ち込もうとした)。
一番下の息子(オレにとっては大人のお兄さん)はまだ在学中の院生だった。
お袋が言うには専攻は原子物理学だそうだ?
オレには専攻も原子物理学もサッパリ意味不明だったが、なんとなく難しい事をしているのだと思っていた。

よく家の前で洗車をしていた。
よく覚えていないがクーペだったとおもう。

気むずかしそうな顔をしていたが優しいお兄さんで、俺を座席に乗せてくれ、運転ゴッコをさせてくれた。

オレの家にはハイエース(土建バス)と軽トラ、小さなユンボ(パワーシャベル)しかなく、一般の乗用車はいろんなスイッチやメーターが付いていて、宇宙船みたいで楽しかった。

お兄さんはそれをいちいち説明してくれたが、当然のことオレにはサッパリ意味わかっていなかった。

お兄さんは少し寂しそうにも見えた。

オレはお兄さんに同情していた。

理由は・・・インテリ家庭の裏表というのでしょうか・・・・外面の上品さとは裏腹に、家庭内はものすごく仲が悪かったのだ。

オレの家には否応もなく隣家の諍いが毎晩聞こえてきた。

『バカヤロウーなに言ってんだ!』

『ぶっ殺すぞ、テメエ』

『キャーなにすんのよ、キチガイ』

特に父親とお兄さんの喧嘩は凄まじく、モノが倒れたり割れたりするする大音響が響いてきた。
あまりに激しい喧嘩なので、お袋が心配してオヤジに言ったモノだ。

『あんた止めに行った方がいいんじゃないの?』

すでに酒が入って面倒くさいオヤジは

『ほっておけばいいんだ、あんなの。どうせあんな細っこい腕でする喧嘩じゃ怪我もしないだろ』

たしかに隣家は家族全員モヤシみたいに細かった。
隣のお父さんとは近所の寿司屋でよく落ち合うオヤジは、ある程度事情を知っていたようで、呟くように言った。

『インテリも考え物だの・・・医者vs原爆だ』

内面と外面にあまり温度差のない土建屋家庭には本当にそう思えた。

インテリ家庭は土建屋よりバイオレンスだった。
原子物理学のなんたるかを、全くわかっていなかったオレにも原子力は危ない、と刷り込まれた。

あのお兄さんも今頃どこかの電力会社に勤めてるのかな?
顔はなんとなく東電のニート社長に似て、典型的なインテリ優男だった。

煩悩の夕暮れ、2011年6月14日号


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