我々駐在外道は、旅行者や出張者と比べて時間だけはたっぷりある。
だからこそ、外道を自らの進むべき道と信じて、日夜修行に励むわけであるが、いかんせん金が続かなくなることが往々にしてある。

まだ僕が外道初心者の頃、調子に乗って週2回の風呂とカラオケ、それに加えてA gogoやマイナー風俗に通っていたことがあるが、1週間に使う金が3万バーツほどになり、とても続かないことに気がついた。

もちろん時間だけはたっぷりあることから、徐々に勉強もするし、諸先輩方から伺った話や自分の経験を元に、自分の甲斐性の中で遊ぶことを身につけていく。

ところが、頻繁にタイに遊びに来る、いわゆる「リピーター」諸氏の中には、ここタイで遊んでいるほんのわずかな時間で周りが見えなくなってしまい、女の子に騙され、湯水のように金を使わされているものも少なくない。

もちろん貧しい境遇を聞かされれば、何とかしてあげたいと思うのは当たり前のことであるし、惚れた女に金を使うのは、外道でなくても男なら誰でもすることだけど、やはり限度というものがあるだろうし、日本男子の優しさと誠実さは、意外にタイ女性には通じないことが多い。

これは知人の話と言うよりも、僕自身の話になってしまうが、こんな恥知らずな外道をどうか皆さん責めないでください。

G君は仕事がらみで月一の出張をくり返す、「バンコクリピーター」。
よほどバンコクが好きらしく、仕事以外でも月一から2回の割で遊びにも来る。

もちろん来れば駐在の我々と一緒に遊び歩くため、タイ語も徐々に上達し、ナナ、カウボーイ、スクムヴィットのカラオケ、タニヤと遊ぶ範囲も広がっていった。

ある時、遊びに行ったカラオケで、彼は一人のチェンマイ娘ノックと知り合うことになる。
普通に連れ出すばかりでなく、昼間も一緒に遊び歩くなど、出張者にしてはなかなかの外道ぶりの彼は、ある日自慢げにその娘のことを我々に話してくれた。

曰く「あの娘、僕のことを本当に好きだって。お金はいらないから来るときはいつも会ってくれって言うんですよ。」

G君は30代前半の好青年ではあるが、もちろん妻子もあるし、遊びに行って「独身だ」などとつまらない嘘はついていないので、ノックが結婚を視野に入れてそんなことを言っているわけではないことは明かであったが、僕は何か胡散臭いものを感じていた。

もちろん、本当に相手の男が好きで、「お金はいらない」という女もいることはいる。
特に親しくなった女に「今日は金がない」というと、本当に「いらない」と言ってくれることもあったが、最初からそんなことを言ってくる女はちょっと信用できない、と言うのが僕の考えである。

しかし、彼は本当にほとんど金を使わずに、3泊4日の滞在を終え、彼女に空港まで見送られて日本に帰っていったそうだ。

そして次に来たとき、彼はノックを3日間借り切り、昼夜を共にすることになる。

いくら何でも仕事を休ませたら、彼女のところに金銭的負担が来るので、一体どうしているのかと聞いてみたところ、「もちろん店に払う罰金分くらいは僕が出していますよ。仕事辞めさせて面倒見てやれない以上それくらいは当たり前でしょう?」

なるほどである。
まぁ、短期滞在の間だけ彼女を独占するための出費だから当然と言えば当然、大した出費ではない。

こうして二人の中はどんどん親密になっていき、G君はバンコクに来るたびにノックとの逢瀬を楽しんでいた。
いつの間にか彼女は「オフ有り」から「オフ無し」に転身し、G君の「オンリー」となったと聞かされた。

ここで疑問が生じてくる。
金のために「オフ有り」で働いていた彼女が、「金はいらない」と言って日本人のフェーンと付き合いながら「オフ無し」に転身する??

どうも納得いかない話ではないか。

ある日、僕は店に行ったときに、ノックを指名して、G君とのことを聞いてみた。
「本当にフェーンなのか」との問いに、彼女はうれしそうに頷きながら、まず薬指にした指輪を見せてくれた。

純金らしい指輪には、小振りながらきれいなダイヤモンドが一列に6個埋め込まれていた。
45,000バーツだという。

そして次に彼女が見せてくれたのがなんと、G君名義のキャッシュカード。
彼は彼女のためにバンコク銀行に口座を開き、キャッシュカードを持たせていたのである。
もちろん、G君が来タイしたときに数万バーツを入金しておき、彼女はいつでも必要なときに金を引き出せるというのである。

「金はもらわないんじゃなかったのか」と僕が聞くと、「私からは何も言っていないけど、彼はジャイ・ディーだから。」との答え。

確かにジャイ・ディーには「優しい」と共に「気前がいい」という意味があるけれど・・・。

次にG君が来たときに僕は思いきって彼に聞いてみた。

「金は渡さない約束じゃなかったのか?」

「もちろんセックスの対価として金を渡しているわけじゃないですよ。でも恋人だったら相手が困っているときに助けてあげるのは当たり前じゃないですか。彼女からお金をくれと言ったことは一度もありません。それに僕は彼女が金のために他の男に抱かれるなんて我慢できないんです。」

要はすっかり貢いじゃってるわけである。

もちろん、人の恋路を邪魔するほど野暮でもない僕は、特に何も言わないまま二人を見守ることにしたが、やはりタイ人女の「お金はいらない」という言葉は「今回のセックスに対してはいらないけど、私を気に入ったらたくさん貢いでね。」という風に訳した方がいいのではないかと思う。

G君はバンコクに来るたび、ノックのアパートに滞在するようになり、その間ノックは仕事を休んで、彼にべったり寄り添うことになる。

いわゆる「現地妻」感覚であるが、G君にはひとつ心配事があった。
曰く「自分が日本にいるときにノックが他の男と遊んだりしないかどうか」と言うことである。

僕は彼のために、出来るだけノックの店に行き、彼女を指名して他の男に口説かれないようにしてあげるようにした。

もちろん店にいるノックの友達からも情報収集し、彼女が浮気をしないように見張ってくれるよう、お願いもした。

ノックはそばで見るとけっこう可愛く、オッパイも意外に大きいことがわかった。
酔うとよく笑い、セクシーでもある。

ある日僕は、「一緒にディスコに行こう」と彼女を誘ってみた。
二つ返事でOKを出した彼女と、ラチャダーの「ダンスフィーバー」に行き、したたかに酔ったところで突然彼女に抱きつかれ胸を押しつけられた。

僕もけっこう酔っていたために、彼女を抱き寄せキスをしたところ、深く舌を絡まされ、そのまま大音響の中二人のチークタイムは5分も続いた。

はい、白状します。
その晩僕はノックと寝ました。

別れ際彼女に「絶対G君に言っちゃダメだよ。」と釘を差し、3000バーツを渡そうとすると「絶対言わないから安心して、それにお金なんかいらない。ちょっと淋しかっただけだから。」とのこと。

ごめんG君。
でも、寂しさから彼女が浮気しないためにしたことだから。

いやいや大丈夫、彼女が他で浮気しないように僕がしっかり見張っておくって、ほんとに・・・。



外道図鑑、2003年8月28日