それは、ある日突然かかってきた国際電話だった。

『もう我慢できないだよ 別れるだの!』

日本に嫁に送り出した、馬鹿たれインバイからだった。

『・・・アホかお前は・・・いまさらタイに戻ってどうするんだ?』

『大丈夫、私モテルだから』

『それはかつての話で、今は外見も内面もかなり痛い女だ』

『私どこも痛くない、健康だの!』

『もういい、痛いの話は忘れろ。いったい何が我慢できないのだ?』

聞いてみると二倍疲れる話だった。

我慢できないと言うからには旦那の暴力とか、浮気とかの話しかと思っていたが、我慢できないのは、子供が出来てから旦那がマンコしてくれない、日本つまんない、金持ちの国かと思っていたが、住んでみたらバイタクすらいないので歩くのがかったるい、などの脱力感充満する愚痴だった。

オレがグッタリ呆れて聞いていると、馬鹿たれインバイは宣言した。
『もういい、もうすぐタイに帰るから、その時相談するだの』

『相談するんじゃない!関わり合いになりとうない。だいたいお前がインバイ稼業に見切りをつけて、強引にあのリーマンと入籍したんだろうが。向こうが無口で気が弱いのをいいことに、お前がガンガン話をつけて、入籍に追い込んだの忘れたのか』

『もう気が変わっただの』

話にならん。ガキはどうする気だ?と訪ねても脱力感溢れる返答。

『そんなの私カネない、可哀想じゃない。旦那のお母さんにあげるだの』

ガキの養育を押し付けた上、茨城だか栃木だかのマンションまで取ろうとしてやがる。
それも、あと20年のローンは欲しく無いという身勝手さ。
まともに聞いていると、他人事ながら気が狂いそうだ。

結局、馬鹿インバイがタイに来てしまった。

『で、どうするんだ?』

『なにがだの?』

『なに言ってんだ、別れ話だろ?この前、話していたのは』

『ああ、あれはもういいだの、心配ないだの』
あまりに強烈な別れ話に、旦那や親族一同が震え上がり、金渡してタイに里帰りさせることで話をつけたそうだ。

なんだか体のいい脅迫みたいな、オオゴネだったようだ。

『150枚貰っただの』

『150万のことか・・・たち悪いな、お前マジに主婦か?オトコだったらいいヤクザになれただろうに・・・もったいない』

インバイはオレの話しなど聞いていない。
勝手に自分のことだけを話す。

『それで田舎に帰って、14ライの田んぼと水牛買った』

『小作人の娘から地主になるには、その裏に悲惨な事実が隠されているのだな・・・お前じゃないぞ、旦那の悲劇だ』

1ライ=約40x40M=1600平米だから、22400平米と水牛・・・ゴネてみるもんだな。

オレも大家にゴネて、冷蔵庫せしめたばかりだから人のことは言えないが、このインバイの方が、はるかにスケールのデカイ大ゴネ野郎だ。

サイアムパラゴンで、子供や旦那のお土産の買い物に付き合わされた。

『私幸せなー、旦那さん優しいし、子供は可愛い、大好きだのっ!』

・・・オレはなんだか敗北感に打ちひしがれて、帰途についたのだった。


徒然外道、2009年2月4日

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