オレがロード(旅)に出ることにしたのは、知人のハングルM家の家庭崩壊がきっかけだった。

ハングルMは、タイに填った若い日本人にありがちなパターンで、タイ女性を女房にしていた。

離婚・蒸発・慰謝料・養育費・裁判・弁護士等々・・・悲惨なニュースしか耳にしない、日本人男性とタイ女性の結婚が多いなか、ハングルM家は”愛しているなら拳で示して”を標語にしているとしか思えない、セックスとバイオレンスに満ちた家庭ながら、何とか存続していた。

二十代前半に、頭が空のままのぼせ上がって結婚してしまった二人は、その夫婦喧嘩からして微笑ましく、ハングルMは真夜中過ぎに電話をしてきては、「ヒロさん聞いてくださいよー!ウチの嫁がフェラチオしてくれないんですよー」電話の後ろでは、奥さんの罵声と嗚咽が聞こえる。

・・・こいつは、一体何を訴えたいのだ?

オレは眠気と馬鹿馬鹿しさに耐えながら、「ウンウン、それは君がクン二をしてあげないからいけないのだ。もう一度最初からやり直しなさい」などと、いい加減な答えを与えて電話を切るのが常だった。

三十過ぎても独り者のオレは、正直この馬鹿夫婦が羨ましかった。

若いけど曲がりなりにも家庭を持ち、二人で人生を築いていこうとして一生懸命だし、彼等の一人息子はまだ2歳にもならないカワイイ盛りだ。

家庭を持ったことのないオレにとって、このハングルM家は、心に安らぎを与えてくれる癒しの場だった。

何時までも、このまま続いて欲しかったのだ・・・。
だがやはり、この馬鹿家庭も、ついに終焉の時を迎えた。

奥さんが出ていってしまったのだ・・・。

直接の理由はハングルMの浮気だが、二人の間にある真の理由は、他人のオレにわかりようもない。

理不尽だと言うことは理屈でわかっていても、オレはハングルMに対して猛烈に腹を立てていた。

「・・・あの大馬鹿野郎が!甲斐性もないくせに浮気なんかしやがって、ロクデナシの三国人め、釜山港へ帰れ!」

「子供はどうなるのだ!思いっきり典型的な日本人の落とし子じゃないか!」

「子供は奥さんが引き取るんだろうな・・・もう、あのカワイイ子にも会えない・・・」

こうした、独り言をブツブツ言いながも、オレには彼等に対して何かしてあげることも、またする気も無いことを知っていた。

オレの不平は無責任な傍観者の力ない正論に過ぎないのだ。

冷たい風が横殴りに吹きすさぶような荒涼とした心に、外道先達者”ジム・ファッキン・モリソン”の詞が思い浮かんだ。

~孤独の時、人が醜く見える 孤独の時、世界は汚れて見える~

オレは自分の内にある孤独と醜悪さに気づき、自分も含めた全てが嫌になった。

日常のしがらみを捨てて、以前のように旅に出よう。孤独ではあるが自由な方が良い。と思うと、オレは向こう10日間の全ての仕事をキャンセルし、また連絡が付かないところはぶっちぎる事にした。

いいのだ、いいのだ、仕事ぐらい!
そんなことで誰も死にはしないのだ!

そう、決めると、急に晴れ晴れとした気持ちになった。

映画、”イージーライダー”の中で、ビリーとキャプテン・アメリカは、時間に支配され、自主性を失った現代社会から決別するため、時計を捨てて旅に出た。

時計の刻むリズムに支配されることなく、自分の内なる宇宙の刻むリズムに従って生きることを選んだのだ。

オレは荷物をまとめながら、そっと左手の腕時計”ローレックス・パッポン限定モデル”を外して、ベットにおいた。

”オレも時間を含めた諸々のしがらみから決別しよう、自分の内なる外道時間に従って生きるのだ!・・・でも、携帯は持っていこう。アラーム機能も付いてるし・・・”などと、結局、何もわかっていないことをしながら、荷物をまとめベットについた。

翌朝・・・早朝に渋滞を避けて、バンコクを出るつもりだったが、オレの体内時計は普段でもかなり外道時間に合わせて時を刻んでいるので、起きたときには昼前になっていた。

・・・何と言うことだ!
オレは急いで荷物を愛車に載せた。

一応、北に向かって走ろう、行けるところまで行って、日が暮れたら宿を探せばいい。

こんな気ままな旅は久しぶりなので、オレの心は躍った。

オレは流れ者の外道だ!
自由と煩悩に向かって突っ走るのだ!

オレは愛車のキックを思いっきり蹴り下げた。
タイ製150ccカブ型バイク"外道号"は、パルパルパル・・・パンパンパン・・・と、芝刈り機のような爆音を響かせて、バンコクをあとにしたのだった。



外道日記、2002年2月6日

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