歌舞伎町に住むとリラックスして仕事に集中できる。と言う話を聞いたとき、オレはあることを思い出し、その一見矛盾した主張に納得した。
かつて歓楽街のど真ん中に住んでいたことがある。そこにはストリップバーがあり、一発屋があり。安宿の一室では賭場も開帳され、比較的静かな裏通りもタチンボやシャブ売りなどが暗闇に蠢いていた。街には一晩中喧噪が充満し、『リラックス』や『落ち着く』と言う気分とはほど遠い。だが、オレは落ち着いて暮らし、そして楽しかった。嬌声と怒号、パトカーのサイレンなどが充満する環境は意外と落ち着く。それは情報過多の静寂だ。一定以上の情報が氾濫する歓楽街ではそれらはないに等しく(情報に麻痺するため)、人々はバラバラに暮らしている。裏通りを通ってコンビニ行こうとすれば。毎日同じ所に立っているタチンボやプッシャーから声がかかる。時折利用するが大抵は軽く挨拶するだけで、頻繁に顔を合わせる割にお互いの名前も住所も知らない。歓楽街で暮らすのは寂しくはないがひどく孤独でもある。おそらくある線以上の歳だと生き辛くなるのではないだろうか?またはかえって暮らしやすいかもしれない。よくわからない。ただこうした場所が極めて刺激的でありながら、人同士のつながりが希薄で、きやすく自由に暮らせる場所であることも確かだ。気力が充実しているうちに一度歓楽街のど真ん中で暮らすことをお勧めする。その経験は強烈な記憶となり、後の人生に大きな影響を受ける。良くも悪くも。そしてそこは、多くの魚で充満する水の底だ。音は聞こえない。

外道の細道、2009年5月31日


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